旧藤田別邸日本を代表した財界人藤田謙一の贅を凝らした別邸
広大な庭園と和洋の建築群の融合を堪能できる
明治から大正期にかけて西洋文化の風潮が広がった弘前では、多くの洋館が続々と建設され、豊かな文化と技術に守られながら当時のロマンを今にとどめている。
弘前公園に隣接する「藤田記念庭園」に所在する洋館もそのひとつ。庭園を中心として、洋館や和館等で構成される藤田記念庭園は、弘前市が市制施行100周年を記念して1991(平成3)年7月に開園した。総面積は約21,800㎡(約6,600坪)あり、東北地方有数の大規模な庭園である。広大な敷地は、高低差のある洪積台地の突端の上下に広がる。洋館や和館などの建物のほとんどが、高台部に立ち並ぶ。低地部には茶室と池泉式の回遊庭園が整備されている。
日本有数の財界人藤田謙一
藤田記念庭園は、弘前に生まれ、明治法律学校(現明治大学)卒業後、60社以上の会社の代表や取締役を経て、日本商工会議所の会頭を務めた日本屈指の財界人・藤田謙一(1873~1946)の別邸として整備された。藤田は、自らの事業で得た利益を地元に還元することに熱心で、育英事業を立ち上げたり、公会堂の無かった弘前市のために公会堂を建築して寄附したりした。さらに岩木山麓の開発事業を手掛けることになった藤田は、弘前に別邸を整備することにした。別邸の建設にあたり岩木山を眺望できる現地を選び、当時国分寺崖線沿いに広まっていた別荘庭園等をイメージした庭園と別宅の整備を進めたと考えられる。
藤田の死後、所有者は転々としたが、1987(昭和62)年に弘前市市制施行100周年の記念事業計画のため市が土地と建物を買い取って整備を行った。
変化に富み意匠を凝らしたモダンな設計
正面の冠木門をくぐると左手に見える「旧藤田家別邸洋館」。設計・建築を手がけたのは、棟梁・堀江佐吉の息子たち。棟札によると長男・彦三郎を筆頭に、斎藤伊三郎、堀江金蔵、幸治、弥助の兄弟に、彦三郎の子の堅三郎などが関わっており、当時の堀江家の面々が心血を注いだ建築であることがわかる。
桟瓦葺きの木造2階建てで、壁面はダークグレーのモルタル塗り。反りを付けて玄関先まで敷設されたドーマー付きの袴腰屋根と、上部に八角平面の尖塔屋根付き塔屋を配した切り妻屋根をL字型に組み合わせている。
瓦葺だが、塔屋部分は赤い鉄板葺き。建物の大部分がグレー系で統一され、この塔屋の赤とのコントラストが建物にアクセントを与えている。
また、内部も暖炉付きの洋間、部屋の角のベイウインドウ、サンルームなど、当時の弘前では珍しかった様式でまとめられている。大理石のマントルピースやステンドグラスの窓、当初からの板ガラス、シャンデリア、暖炉、調度品などの設えは当時のまま。精緻な漆喰による細工など、随所に大正ロマンの情緒を楽しむことができる。
洋館1階には、弘前市が舞台のアニメ 『ふらいんぐうぃっち』に登場する「喫茶コンクルシオ」のモデル「大正浪漫喫茶室」がある。外の光が差し込むサンルームやタイル敷きの床がレトロな情緒を演出している。併せて藤田謙一資料室を併設。他に、コンパクトなコンサートなどが行われるホールや、貸し会議室としても利用されている。
農牧場開拓の事務所として建てられた煉瓦倉庫
洋館と併せて同時期に建てられた開発事業事務所の倉庫は、岩木山麓の農牧場開拓のために設置された。軒部分の煉瓦を4重にした軒蛇腹が特徴的な、イギリス積み方式の煉瓦造り2階建て。考古資料を展示する「考古館」として長らく親しまれてきたが、2017(平成29)年、新たな観光拠点として「和」をテーマにした喫茶スペースやクラフトギャラリーとしてリニューアルされている。
簡素ながら選りすぐりの材料でつくられた和館
木造平屋建ての和館は、弘前市と隣接する板柳町の実業家・菊池仁康宅として、1937(昭和12)年に建設されたものを、1961(昭和36)年に現在の場所に移築された。寄棟屋根の主屋妻面に入母屋屋根の玄関及びポーチを接続し、背面にはなれを雁行形に配置している。座敷は一間幅の縁側でぐるりと囲んで下屋庇を張り出す。主屋座敷は12.5畳と10畳の二間続きで、東側に床の間・棚・付け書院が設けられている。はなれは格天井で違い棚が設けられるが、しつらえ自体は簡素である。ただし、用いられた材料は選りすぐりの一級品であり、小川破笠(はりつ)作の板戸絵、ナナコ塗り箪笥、狩野派屏風など、見どころは多彩。2017(平成29)年第75期将棋名人戦七番勝負第2局の会場となった場所である。
「岩木山」の雄大な眺めを味わえる贅沢な空間
園内は、高さ13mの崖地を挟んで高台部と低地部に分かれている。高台部の庭園は、当初からのもので、西側に岩木山の雄大な姿を独り占めのように望むことができる贅沢な空間である。スケールの大きい石造物、手入れの行き届いた植栽とともに、立ち並ぶ洋館や和館と調和する落ち着いた空間を形成する。
低地部庭園は池泉廻遊式庭園で、1991(平成3)年のリニューアルオープンに合わせて大きく整備されたものである。茶室の「松風亭」や水琴窟などは実に趣深い。茶室から眺める庭園や、花菖蒲・ツツジなどの群落、崖地を流れる滝、八橋など、四季折々の景趣の変化を楽しむことができる。
建築概要
名称 | 藤田記念庭園(旧藤田家別邸洋館) |
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設計 | 堀江金蔵 |
施工 | 堀江彦三郎 |
竣工 | 1921(大正10)年 |
構造・規模 |
・洋館 木造二階建、塔屋付 瓦葺一部鉄板葺 ・和館 木造平屋建 寄棟造 瓦葺 ・考古館 れんが造地上二階地下一階建 寄棟造 鉄板葺 |
所在地 | 〒036-8207 青森県弘前市上白銀町8-1 |
文化財指定 | 国登録有形文化財 |
沿革
1921(大正10)年 | 竣工 |
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1946(昭和21)年~ | 藤田の死後、弘前相互銀行(現みちのく銀行)頭取・唐牛敏世に譲渡され「弘前相互銀行倶楽部」(のちに「みちのく銀行倶楽部」)として開放 |
1961(昭和36)年 | 板柳町より菊池仁康宅を現在の場所へ移築 |
1989(昭和64)年 | 弘前市市制施行100百周年記念事業の一環として弘前市が買収して復元整備開始 |
1991(平成3)年 | 「藤田記念庭園」開園 |
2003(平成15)年7月 | 国の登録有形文化財に登録(洋館、和館、倉庫、冠木門、両袖番屋) |
基本情報
区分 | 登録有形文化財 |
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住所 | 青森県弘前市上白銀町8-1 |
営業/休業 | 通年開園(冬期間11月24日~翌3月31日は高台部のみ) |
見学の際の注意事項 | 特になし |
営業時間 | 9:00~17:00(入園券販売~16:30) ※夜間開園期間は9:00~20:00(入園券販売~19:30) |
料金 | 大人(高校生以上)320円、子供(小・中学生)100円 以下の方は入園無料 ※当日は証明書提示要 ・市内に住所がある満65歳以上の人 ・市内に住所がある小・中学生 ・市内にある小・中学校に在籍する児童生徒 ・障害者手帳等の交付を受けている人 ・市内にある障がい者等施設に入所または通所する人 ・市内に住所のある大学等の外国人留学生 ・市内にある大学等に在籍する外国人留学生 ・上記に該当する人で介護が必要な場合はその介護者 |
交通 | 【タクシー】 JR弘前駅より15分 【バス】 JR弘前駅より弘南バス20分「市役所前公園入口」下車、徒歩3分 |
関連リンク |